ツーリングの休憩中にカギをなくして途方に暮れる

touring_key高校時代、科学部で一緒だった山田君は、いつもちょっとだけ鈍くさかった。元々部員数が少ない科学部なのに、なかなか先輩たちの名前も覚えられず、本人も存在感がないので、あまり他の部員に覚えてもらっていなかった。部活が終わるころにやってきて、自転車の鍵を失くしたので今まで探していたと言い訳する彼が居ないことに、その時まで誰も気づいていなかったという切ない話もある。

卒業以来しばらくは会っていなかったのだが、同窓会で顔を合わせたら同じバイク乗りだとわかり、それならと俺が所属しているツーリングのクラブに誘った。喜んで彼は参加してくれたが、初めて皆でツーリングをした時も、彼は休憩中にバイクのカギをなくして、途方に暮れてしまった。迷惑をかけたくなかったので他のメンバーはそのまま先に行ってもらい、他の人たちは彼とそれっきり。俺は彼と一緒に鍵を探し、ありえないことに彼のヘルメットの中から鍵を見つけ、結局その日は、お互いそのまま帰宅した。

そんなことは学生時代にも合った気がする。部室の鍵は物理科の先生が管理していて、部活がある日は高2の部員が当番制でその鍵をもらいに行き、部室を開ける。物理科の先生はいつでも教員室に居てくれたし、鍵を開けるなんてなんてことない仕事だった。でも彼が当番の時はいつも部室の鍵が開くのが遅れ、なぜそうなのか、皆疑問に感じていた。なんのことはない、物理の成績が悪い彼は、物理科の先生に逢うのが嫌で、いつも教員室の前でモジモジしていただけだったのだ。

今はクリーニング工場で働いているというが、山田君は職場でもなんとなく、浮いているのではないかと思う。ルート配送をしているらしいが、車の鍵を失くしたり、お客さんから預かった服を紛失したりしていないだろうか。学生の頃とちっとも変っていない様子なので、余計な心配をしてしまっている。